top of page
< Back
2025年ノーベル化学賞受賞おめでとうございます!

2025年10月9日

2025年ノーベル化学賞受賞おめでとうございます!

2025年のノーベル化学賞を受賞されたすべての先生方に、テクモフ一同、お祝いと感謝を申し上げます。


今年のノーベル化学賞は、有機化合物と金属イオンによって規則正しく構築される多孔性結晶材料、Metal-Organic Framework(MOF)の開発に対して授与されました。

授賞式では、MOF結晶を用いたガスや有害分子の吸着といった応用技術が強調されていましたが、我々TEKMOFはまた別の応用、すなわちMOFを用いた分子構造決定技術を活用した事業を展開しています。


分子の構造決定は、科学技術の発展における重要な課題です。

  • ヒト由来のものを含め、生物由来の低分子・中分子の90%以上は、その正体が明らかになっていません。これは創薬シード化合物や新規バイオマーカー探索の大きなボトルネックとなっています。朝食で食べたトマトに含まれる有効な栄養素が、まだ構造すら解明されていない未知の物質である可能性があります。天然香料には、素晴らしい香りの源となっている未知の成分が無数に存在します。

  • 医薬品の研究開発において、薬物代謝物や製造不純物の構造を決定・管理し、医薬品の品質を担保することは、人命に関わる重要な業務です。

  • あなたが合成した分子は、本当に設計通りのものでしょうか?


低分子・中分子は私たちの世界を構成する最も基本的な物質群の一つですが、私たちはこれらの分子の正体=化学構造についてほとんど理解できていないのが現状です。生物学の文脈でいえば、DNA、RNAやタンパク質の網羅的な同定が可能になってきた現代において、代謝物と言われる生体低分子・中分子の同定は大きなビハインドを背負っています。

低分子・中分子の構造を決定する手法はいくつか存在しますが、最も正確かつ"簡便(ある前提のもとで)"に構造決定ができるエレガントな手法は、X線結晶構造解析です。ターゲット分子を単離し結晶化"さえ"できれば(砂糖や塩の結晶を思い浮かべてください)、X線を照射し得られた回折シグナルを解析することで、結晶を構成する分子の構造を正確に決定できます。


この手法における唯一かつ最大のボトルネックは、お気づきの通り、結晶化です。分子の結晶化には多大な試行錯誤が必要であり、結晶化しない分子も多数存在します。分子構造の決定は、本当に困難で時間のかかる作業なのです。


前置きが長くなりましたが、このボトルネックをMOFが解決し、"結晶化を必要としない結晶構造解析"が可能になります。MOF内の規則正しく配列した各空孔にターゲット分子を取り込ませると、すべての空孔内で分子が均一に配列します。結晶とは分子が規則正しく配列した状態ですから、MOF内の分子は擬似的に結晶化された状態になります。この状態でMOFにX線を照射すると、空孔内の分子の構造がMOF構造とともに鮮明に観測されます。MOFのおかげで、分子構造の決定をこれまでにないスピードで実現できるようになりつつあります。この手法は結晶スポンジ法と呼ばれ、藤田誠教授や私たちTEKMOFの共同創設者である河野正規教授が開発してきた、莫大なポテンシャルを持つMOFの応用技術です(余談ですが、この手法が真に普及すれば、ノーベル化学賞は確実です)。


私たちの究極の目標は、独自開発したMOFを駆使して世界中のあらゆる低分子・中分子化合物の構造を決定し、構造情報を体系化することで、分子が関わるすべての学術分野と産業分野の発展を促進することです。自然界のあらゆる分子をデータベース化し、一方で人の手で合成された分子の構造を迅速に決定できるようにすることで、科学の発展をこれまで以上に加速化できると私たちは確信しています。特に、我々の技術をメタボロミクスといわれる質量分析計やNMRを駆使した分子の網羅的測定研究と組み合わせることで、飛躍が得られるでしょう。


 改めて、この大きな挑戦の機会が生まれるきっかけとなった受賞者の先生方に、深く感謝を申し上げます。

© 2025 TEKMOF Co., Ltd.

  • Twitter
  • LinkedIn
bottom of page